思ったよりも抜歯の後遺症があって、金曜土曜はほとんど仕事にならず寝込んだ。
ずい分久しぶりの思いがけぬ休日であった。おかげで進んでいなかった読書もできた。
「蒼穹の昴」、「珍妃の井戸」に続いて「中原の虹」へと続く浅田次郎の大作。
弟にいつぞや薦められてずい分前に読み始めたんだが、最近はなかなか進まなかった。

読んでない人にはお奨めです。意外に近代史は軽く流してしまいがちで、中国についてもいかに
ものを知らなかったことか。もちろんエンターテイメントなんだけど、西太后や李鴻章、袁世凱や孫文など
お馴染みの登場人物がいきいきと描かれていて、すぐに引き込まれていった。最後に登場する張作霖の
カッコいい事!関東軍の陰謀で爆死する歴史上の事実を知っているだけに、なんか切なかったなあ。

私の祖父は親父が幼い頃に若くして亡くなったそうなんだが、その弟つまり親父の叔父さんが
生前話してくれた事がある。もう10年以上前かなあ。神戸のおじちゃん、と呼んでいた。
「お前のじいさんはなあ、四校(今の金沢大学のことらしい)受験に失敗してなあ、一攫千金を狙うて
満州に渡ったことがあるんや」多分当時の日本の若者たちは閉塞感漂う国内で悶々としていて
遥かな大地を自由に駆け巡る満州の馬賊に、ほのかな憧れを抱いていたのかなあと思う。もっとも祖父は
夢破れて日本に戻り、体を壊してしまったんだが。神戸のおじちゃんは戦地の満鉄で移動中、後方で
次々と爆発して、ただただ運だけで生き延びた、と言ってた。張作霖曰く「金物の味を知らねえ男が
何ぬかしやがる」どこぞの防衛大臣に聞かせてあげたい台詞であった。

老政治家の台詞も忘れがたい。
「生きとし、生くる者みなすべて、歴史を知らねばならぬ。皆歴史の一人に違いなく、おのれの座標を常に
認識する必要があるからである。父、祖父、父祖の時代を正確に知らねば、おのれがかくある幸福や不幸の
その原因も経緯も分からぬ。幸福をおのが天恵と考えるも、不幸を嘆くばかりも罪である。愚かなる者は
不幸を覆す事もできぬ。」(中原の虹第四巻より抜粋)